枯渇の時代に

 住職になれば御堂や境内地を所有することになりますが、それだけではなくそれまでの借金や評判や人間関係も継承することになります。先代の評判が悪かったりすると、そのしわ寄せが新住職にくることがあります。今までの不満が若い新住職に向けられるのも、人の世というものです。これに対して先代を責めたくなりますし、文句を言う人間への怒りもわきますが、じっと堪えて自らの覚悟を磨くしかありません。


 ゼロからはじめる苦労もありますが、負債や不評を引き継ぐマイナスからの苦労もあります。自分の責任ではない苦労や苦悩は大変ですが、それを投げ出すことなく、逆に自らの信用や信頼に変えていかなければならないのです。そうして初めて継承したいといえるのかもしれません。ますます家業や事業を継承するのが大変な時代になりますが、それはさらに覚悟を求められるということです。


 覚悟さえあれば必要なものは後からついてきます。多くの人が覚悟ならあるといいますが、すぐに揺らぐような覚悟では意味がありません。相当な覚悟があってこそ、相当なことができるのです。何を言われようが、恥をかこうが失敗しようが、やり遂げるという覚悟は想いの強さによるものです。人の想いが枯渇している現代にあって、より強き想いが求められているのです。