中道を目指す時代

 個の暴走について考えさせられます。個人の権利や自由が尊重されますが、日本にはもともと個人という意識はありませんでした。最小の単位は家であり、戦争や飢饉や疫病といった大変な時代を生き抜き、家を守ってきたご先祖様があってこそ、今の生活があります。今より不便で貧しい時代でも家族の絆は強く、今よりも幸せだったのかもしれません。


 社会は義務と忍耐で成り立っています。たとえ不満があったとしても、各人が義務を果たし、仕事や人間関係に忍耐をもって臨むことで円滑に進みます。徳川家康は遺訓で「不自由を常と思えば不足なし」と教えています。今の時代でも変わることなく、生きるということは思うようにならないものです。


 我慢することはないという風潮になれば、義務や忍耐が放棄されるようになります。それでは社会は崩壊します。何事もあたりまえと思えなくなると、面倒になり果たすことが苦しくなってしまいます。


 全体と個人、義務と権利など相反するものを上手にまとめなければなりません。何事もブレーキが必要であり、バランスが大切です。仏教では極端に偏ることがないよう中道を説いています。新たなる時代が暴走することがないよう、正しく進んでほしいものです。