死ねない苦悩

 コロナ禍で講演を聞く機会も少なくなりましたが、久しぶりの講演会で将来的には老いることも死ぬこともなくなるかもしれないと聞きました。さすがにそれはないだろうと思いながらも、そんな世界を想像してみました。自分の選んだ年齢でいつまでも生きられるとしたら、誰もが楽しく生きようとして成長することがなくなるかもしれません。


 人間は限られた時間のなかを生きるからこそ、目標を持とうとし、その過程で人として成長していくのです。永遠を生きるということは、永遠に何もしないということかもしれません。不足するからこそ、努力や創意が生まれ、意義や目的があるのです。満たされた瞬間から人間は不満や虚無を探そうとするのかもしれません。永遠の命は究極の不満と虚無なのかもしれません。


 10世代の同居など考えたくもありません。それ以前に出生率も大きく下がることでしょう。人間は本能的に命のバトンをつなげようとするのは、死に対する最大の準備なのです。命をつなぐことによってこそ、永遠を生きていくのです。生から死までを含めて命の尊厳なのです。いかに科学が進歩しても、越えてはならない一線は守りたいものです。ですが、80歳になったときに30歳に戻れますという誘惑は恐ろしいものです。ですから、最初から発明しなほうが人類のためなのです。