貧しい生活とは

 新しい筆に変えたのですが、慣れるまでは思うように書けないものです。新しい筆がダメだということではなく、何事も慣れるまでには時間がかかります。長く使っていると穂先が割れるようになり交換するのですが、手に馴染むようになるまでは、お互いの癖を確認するかのような時間が必要になります。愛着ある筆を手放すのは残念なのですが致し方ありません。筆供養というものがありますが、筆を供養したくなる気持ちも分かります。


 愛着がわくのは長く大切に使えばこそです。小学校の書道ではプラスチックの筆ですぐに毛が抜け割れてしまいますが、それでは愛着や感謝は芽生えないのかもしれません。大量生産、大量消費、大量廃棄の時代ですが、物を大切にする習慣を育てるためには、良い物を使うことも必要なのかもしれません。相棒として長い時間を一緒に過ごせば人も物もかけがえのないものとなります。


 高いか安いかではなく長く使えるものを選びたいものです。ヨーロッパでは家も家具も新しい物ではなく、古いものに価値を見出します。今の日本は100年もたないものばかりです。日用品だったものが、いつの間にか伝統工芸品となり飾られるようになりました。良い物が生活のなかから姿を消し、捨てても惜しくないもがあふれています。そういった生活が豊かな生活なのかと考えさせられます。