九条錫杖

 九条錫杖というお経があり、そのなかに「懈怠者精進 破戒者持戒 不信者令信 慳貪者布施 瞋恚者慈悲 愚痴者智慧 驕慢者恭敬 放逸者攝心」とあります。怠け者には精進を、破戒者には戒律を、不信心の者には信心を、欲深い者には慎みを、怒る者には慈悲を、愚かな者には智慧を、驕る者には敬意を、放逸な者は心を修めなさいという内容です。


 これらは対になっているものです。何事も光があれば影があり、一長一短あるものです。些細なことで怠け者が頑張ることもあれば、真面目な者が堕落することもあります。いわばシーソーのようなものであり、すべてにおいて可能性があり、また安住できないものであります。どのような人であれ反対の徳や悪徳を得ることもあります。あの人はダメだと可能性も含めて否定したり、あきらめてはいけません。また、あの人なら大丈夫だと盲目的に信じてもいけません。人も状況も変わるものなのです。


 諸行無常という、万物は変化するということが仏教の根本にあります。この変化を無視しようとすると人間は苦しむことになります。子はいつの間にか大人になり親のもとを離れます。人の心もいつの間にか移り変わるものです。時代の中心にいるつもりが、いつの間に乗り遅れるようになります。変化に柔軟に対応するのか、それとも変化に囚われず孤高であるのか、どのような態度であれ自分なりに変化を消化していかなければなりません。変化を親しき友として上手に付き合っていきたいものです。