必要とされなくなった仏教

 2500年前、インドに誕生したお釈迦様は、この世界は苦しみに満ちていると考え、その苦しみから解放されるために悟りを開き仏教を伝えました。当時のインドは今の日本とは比べればまさに天国と地獄ほどの違いだったと思います。仏教の説く人間の根源的な苦しみは生・老・病・死です。死は避けられないとしても、病気の痛みや苦しみは緩和されてきています。老いについても健康寿命は延び還暦・古希を迎えても元気で暮らせます。老・病があるからこそ生が苦しみになるわけですが、老・病が緩和され、いずれは消滅するかもしれません。そうなれば仏教の四大苦のうち3つがなくなることになります。


 今の日本を見ていると多くの人々が人生を楽しむために生きています。もはや仏教の説く生きることの苦しみが存在しなくなるのかもしれません。それは世界中の人々が願い続けてきた究極の世界なのかもしれません。ですが、私には今の日本がそんなに素晴らしい社会には見えません。豊かで苦しみが軽減されていく社会で暮らしながら、人々が抱える苦悩は増しているように感じられるのです。健康で長生きできる社会なのに高齢者の虐待は増えています。いかに老・病を遠ざけてもそれだけで幸福になれるわけではありません。こんなことなら早く死んでいれば良かったという思うような社会を豊かな社会とは言いません。仏教は時代と共に進化してきました。これからの時代に相応しい仏教を模索しなければなりません。