捨てること

 知り合いのご住職のもとにフランスの家具修理職人が訪れたそうです。そのご住職は「家具の修理だけで生計を立てられるのか」と聞いたところ、まわりにある家具を見渡してから、「日本では無理でしょうが、フランスでは十分生活していけます」と答えたそうです。さらに、その修理職人は続けます。「フランスでは本当に良い家具を何代にもわたって使い続けます。フランスでは初代が家を建てれば、二代は庭を、三代は家具を、四代は食器という具合に何代もかけて家を作っていきます。もちろん最初は仮の家具や食器も使いますが、少しずつ本当に良いものを整えていき、子孫へ伝えていきます。」と話したそうです。
 
 同じ先進国でも、フランスでは物を大切に受け継いでいく文化があり、日本ではいつの間にか手頃な物を買い壊れれば捨てるという生活をしています。物を大切に受け継いでいくということ、本当に良い物を使っていくということ、日本では大量消費のなかで失われつつあることです。日本でも昔は女の子が生まれると桐の木を植え、結婚する時にはその桐の木でタンスを作り、母や祖母が結婚の時に持ってきた着物を入れて持たせたそうです。不要な物は買わず、必要な物は大切に使う文化がありました。今では「買ったほうが安い」とか「古くて着られない」と言われてしまいます。
 
 不要な物は捨てるという考えは、物にとどまらず私達の価値観として定着しつつあります。そこから仕事・家庭・人間関係など些細なことで簡単に捨ててしまうようにもなってしまいます。買っては捨てる生活のなかで、感謝の心が薄れてしまい、それが相手や社会に対する感謝の心をも失わせつつあるのです。問題が起こった時、我慢や努力をせず、修復しようとはせず簡単にあきらめてしまうのは、感謝の心を失い自分のことばかりを考えしまうからなのかもしれません。面倒なものを捨てれば楽になれそうに思えるものですが、実際は面倒なものを大切に磨くからこそ宝となるのです。面倒だと何でも捨ててしまえば、いつしか何もない人間になってしまいます。ご縁があったものならば、大切にとっておきたいものです。


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