俗世に負けない場所に

 寺社の建物や境内地には神聖な雰囲気が満ちています。この雰囲気というものは丁寧な掃除や真摯な祈りなどの連続によって作られていくものです。お金をかけて新しくしても得られるものではありません。また参拝者の心というものも影響するものです。迎える側と参拝する側のどちらも清浄なる気持ちを持とうとしなければ形成されるものではありません。


 非日常の空間に足を踏み入れれば、その地の持つ神秘性に感化されます。自分が特別な場所にいることを理解でき、その地に相応しい態度や心になるものです。そういう人ばかりだと神秘性が穢されることはありませんが、非日常の世界を理解できない人が多くなると、せっかくの神秘性が失われてしまいます。


 古来より大切に守られてきた聖地が観光地に変わり、静寂が喧騒に清浄がゴミの散乱になってしまうば、もはや聖地ではなくなってしまいます。世界遺産などは聖地の崩壊を促進するものです。その地が浄化できないほどの人や欲が集まれば、いわば負けてしまうのです。神秘性が失われてしまえば、人を惹きつけ魅了する雰囲気はなくなります。1000年以上人々の安寧の場として大切にされてきた聖地が混雑に翻弄され破壊されるのは忍びないことです。寺社は今まで以上に俗世に負けない神秘性を維持しなければなりません。