引き算の人生

 人間は幸福や楽しみを求める足し算で生きている人が多いように感じられます。楽しみや喜びの数を増やし心を埋めていくことが幸福につながるという考えです。美食や旅行や趣味など人生を楽しむことが生きる目的のようになっている風潮があります。ですが仏教では足し算ではなく引き算で生きることを教えています。不要なものを捨てることで幸福になれると考えるのが仏教なのです。


 不用なものとは欲であったり怒りであったり、さらには不信、嫉妬、見栄、執着であったりします。こういった人間を不幸へと誘うものを捨てることで心やすらかに暮らすことができます。幸福とは楽しみのなかにあるのではなく、やすらぎのなかにあるものです。いかに楽しみを求めても、自らの心が不要なもので占拠されていれば、楽しむことなどできません。大切なことは心を安定させることであり、そのためには不要なものを捨てなければなりません。


 心に様々な感情が渦巻き同居している状態は、雑多な調味料が混じりあい味が分からなくなっているようなものです。その状態で次々に味を足していっても混乱するばかりです。いったんすべての味を捨て無色透明にしてから、必要な味だけを足していかなければなりません。今の日本には求め続けることに疲れているのような雰囲気があります。それは心が求めることではなく、捨てることを求めているからなのです。煩わしいものを捨て心おだやかな暮らしたいものです。